花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 いきなり体を起こした千歳に、すぐとそばで様子を伺っていた綾人がビクっとして仰け反った。
「ちーちゃん。ちゃんと待っててくれた~」
 嬉しそうに口元を綻ばせる小梅の笑顔。
 もちろん千歳も満面の笑みでそれに答える――が……。
「千歳っち!?」
「ちーちゃん!!」
 ほっとしたのがいけなかった。
 小梅の顔を見た瞬間にそれまで張り詰めて、ようやく保っていた気力が切れてしまった。
 めいめいに自分の名前を呼ぶ二人の声を遠くに聞きながら、千歳の視界は暗転する。

 どうやら、限界だったらしい――

「全く。風邪は万病の元なんだから、たかが風邪なんて見くびっちゃ駄目じゃない。どうしてもっと早くに来なかったの?」
「はい……すみません」
 保険医に小言をくらい、千歳は素直に頭を垂れた。
 結局。再び机に倒れこんでしまった千歳は、綾人に抱えられて保健室に運び込まれてしまったのだった。
「それにしても……どこのお姫様かと思ったわ」
 その時の光景を思い出したのか、不意に保険医がクスクスと笑い始める。
「いやあ、先生。じゃあ、俺王子様?」
「黙れ」
 調子に乗って嬉しそうな顔をする綾人を千歳はギロリと睨む。

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