circus
僕と彼女はマスターからボウモアをそれぞれ受け取る。彼女は水割りだ。

「僕は君のために、あるルーティンを崩した」

「何の話?仕事終わってなかったの?」

「いや、何でも無い。明日やれば済む話だ」

「?」

彼女は不思議そうな表情をしながら肩をすくめた。

僕と彼女は同じタイミングでボウモアに口を付ける。お互いのグラスから氷の冷たい音がした。

「ねえ、砂時計みたいにね、ひっくり返せばまた砂が流れ落ちたらいいのにって思うの」

「一体何の話だい?」

「私、離婚したの」


丁寧に磨き上げられたカウンターテーブルが、彼女の笑顔とも悲しい顔とも取れない物憂げな表情を映し出した。



 
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