龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
勝麟太郎も江戸に戻るはずだったが、永井に説得されて長崎に残留した。
彼が長崎に残留したのにはもうひとつ理由があった。麟太郎には長崎に愛人がいたのである。名は梶久といい未亡人である。年はまだ十四歳であったがすでに夫が病没していて未亡人であった。
縁は雨の日のことである。
ある雨の日、麟太郎が坂道の途中で高下駄の鼻緒を切らして困っていたところ、そばの格子戸が開いて、美貌の女性がでてきて鼻緒をたててくれた。
「これはかたじけない。おかげで助かった」
麟太郎は礼を述べ、金を渡した。しかし、翌日、どこで調べてきたのかお久が伝習所に訪ねてきて金をかえした。それが縁で麟太郎とお久は愛しあうようになった。当然、肉体関係もあった。お久はまだ十四歳であったが夫が前にいたため「夜」はうまかったという。 伝習所に幕府の目付役の上司がくると、麟太郎はオランダ語でその男の悪口をいう。
通訳がどう訳せばわからず迷っていると、麟太郎は、
「俺の片言が訳せないなら言ってやろうか?」とオランダ語で脅かす。
ある時、その上司の木村図書が麟太郎にいった。
「航海稽古の時、あまり遠方にいかないようだがもっと遠くまでいったらいいのではないか?」
麟太郎は承知した。図書を観光丸に乗せ、遠くまでいった。すると木村図書はびびりだして「ここはどこだ?! もう帰ってもよかろう」という。
麟太郎は、臆病者め、と心の中で思った。
木村図書は人情に薄く、訓練者たちが夜遊びするのを禁じて、門に鍵をかけてしまう。 当然、門をよじのぼって夜の街にくりだす者が続出する。図書は厳重に御灸をすえる。あるとき麟太郎は激昴して門の鍵を打ち壊し、
「生徒たちが学問を怠けたのなら叱ってもよいが、もう大の大人じゃねぇですか。若者の夜遊びくらい大目にみてくだせぇ!」と怒鳴った。
図書は茫然として言葉も出ない。