龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
「夜が明けると、長府や壇ノ浦の砲台がさかんに撃たれたちゅうが、長州藩軍艦二隻がならんで碇をおろしている観音崎の沖へ出て、砲撃をはじめたちゅうことじゃきに」
「長州藩も馬鹿なことをしたもんでい。ろくな大砲ももってなかったろう。撃ちまくられたか?」
「そうじゃきに。たがいに激しく撃ちあって、アメリカ軍艦は浅瀬に乗り上げちゅうが、なんとか海中に戻り、判刻(一時間)のあいだに五十五発撃ったそうです。たがいの艦体が触れ合うほどちかづいていたから無駄玉はなかとです。長州藩軍艦二隻はあえなく撃沈だということじゃきに」
 将軍家茂は大阪城に入り、麟太郎の指揮する順動丸で、江戸へ戻ることになった。
 小笠原図書頭はリストラされ、大阪城代にあずけられ、謹慎となった。

  由良港を出て串本浦に投錨したのは十四日朝である。将軍家茂は無量寺で入浴、休息をとり、夕方船に帰ってきた。空には大きい月があり、月明りが海面に差し込んで幻想のようである。
 麟太郎は矢田堀、新井らと話す。
「今夜中に出航してはどうか?」
「いいね。ななめに伊豆に向かおう」
 麟太郎は家茂に言上した。
「今宵は風向きもよろしく、海上も静寂にござれば、ご出航されてはいかがでしょう?」 家茂は笑って「そちの好きにするがよい」といった。
 四ケ月ぶりに江戸に戻った麟太郎は、幕臣たちが激動する情勢に無知なのを知って怒りを覚えた。彼は赤坂元氷川の屋敷の自室で寝転び、蝉の声をききながら暗澹たる思いだった。
 
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