I and You

動揺

次の日の夜。
クローンが山形家を帰宅した。

マンションのドアを開けて、
「ただいま」
と、クローンが小さな声を出した。

誰も出迎えてこない。
クローンにとっては、初めての自宅訪問である。
よそよそしくクローンは靴をゆっくりと脱いだ。

「誰かいないの? 」
と、言ってリビングに続く廊下を歩いて扉の前に来た。

この先に一郎の妻と子供がいる。
ここからは、一郎になりきらなければならない。
初めて会う相手に親しく接する。
しかも夫婦として、父親として、昨日まで康夫の別荘で学習したことを試すことに不安と緊張感がある。

クローンの手がドアノブに触れた瞬間、中から扉がゆっくり開いた。

「あっ! 」
思わずクローンが驚いたように声を出した。

扉の前には息子の栄作が立っていた。







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