Blood†Tear
上機嫌に再び包丁を握ったシェイラ。
鼻歌混じりに林檎の皮を剥くが、
「痛っ……く、ない……?」
手を滑らせ指を切ってしまった。
しかし、痛みを感じない。
血の流れる指先を不思議そうに見つめ、目を細める彼女。
様子のおかしい彼女に気づき、ジークは歩み寄ると心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「…はい、心配いりません。手を滑らせてしまって」
未だ指を見つめる彼女の手を取りハンカチで傷口を押さえると、彼は絆創膏を取りにリビングへと姿を消す。
「痛覚を、失ってしまったようですね……」
治癒の力を使った事による代償。
重体のクレアに治療を施した際、膨大な力を使った彼女は痛覚を奪われたようだ。
1人呟く彼女の元に戻ったジークは彼女の言葉を耳にしながらも、何も言わずに絆創膏を巻く。
治療をしてくれた彼に礼を言うと微笑む彼女。
他人を心配させまいと顔に浮かべるその笑顔は痛々しく、彼の胸を締め付ける。
「これ以上、無理しないで、シェイラ……」
微笑む彼女を悲しい瞳で見つめると、そっと胸に抱き寄せる。
彼の胸に収まった彼女は数秒目を閉じ寄り添うが、ゆっくりと目を開け眉を寄せながら彼を見上げた。
「ごめんなさいジーク。私は皆さんの力になりたいのです。だから、貴方のその願いを聞く事は出来ません」
彼の胸を押し離れて行く彼女。
そんな彼女がどこか遠くへ消えてしまいそうで、彼は無意識に手を伸ばす。
しかし、宙を舞ったその手は何も掴まず降りていく。
「…私、クレアさんの様子を見てきますね」
彼の伸ばされた手に気づいていたが、その手を掴まなかった彼女。
悲しそうな瞳から目をそらすと、彼女は逃げるように姿を消した。
1人取り残された彼は無言でその手を見つめるとぐっと握り締める。
天井を見上げ目を瞑ると、深く息を吐くのだった。