Blood†Tear
空を覆っていた厚い雲は消え、姿を現した太陽は西に傾く。
町では人々が別れを告げ、家へと足を向ける時となった頃、ある家のキッチンにはジークとシェイラ2人の姿があった。
静かにシェイラは林檎の皮を剥き、8等分に切られ皿に盛られたそれを摘み食いするジーク。
コウガ、レオン、レグルの3人はそれぞれ外に出ている為、今此処に居るのはこの2人とクレアの3人。
「あの、お嬢様……」
何か考え事をしながら包丁を握る彼女。
そんな状態では危険だと声をかけるが、振り返った彼女は何故かジークを睨み付けた。
「私はお嬢様ではないと、何度言ったらわかるのです、お兄様」
頬を膨らませ言う彼女の言葉に彼は頭をかき目をそらす。
「その……お兄様と言うのは、止めて頂けないでしょうか……?」
「あら、気に入らなかったかしら?」
「否、気に入らないと言う訳では……」
そう、気に入らない訳ではない。
只、正直気恥ずかしいと言うか、何というか…
1人の男としてではなく、兄として見られている事に少し抵抗がある、只それだけ…
「では、何とお呼びすれば?」
「今まで通り、ジークとお呼び下さい、お嬢――」
彼の口に指を添え言葉を遮った彼女は、彼を見上げながら呆れたように溜め息を吐いた。
「では、こうしましょう。私は貴方をジークと呼びます。そして貴方は私をシェイラと呼ぶ。
しかし、貴方が私をお嬢様と呼んだ際には、私は貴方をお兄様とお呼びします。それでいいかしら?」
交換条件?
否、罰?
何とも言えない彼女の提案。
「しかし、私のような者が貴女を呼び捨てにするなど……」
「何も気にする事はありません。私はもう貴族の一員ではないのですから……」
遠い目をする彼女の瞳は悲しそうな色をする。
「以前のように、呼んでは頂けないのですか?あの日のように、シェイラと……」
懇願するようなその瞳に見つめられ、魅入っていた彼は同意の意を示す。
「では、交渉成立と言う訳ですね」
頷いた彼ににっこり微笑む彼女の瞳には、既に悲しみの色は消えていた。