Blood†Tear
西に沈みかけた太陽が空を赤く染める頃、町の中をコウガは1人で歩いていた。
考え事をしているのかゆっくりとした足取りである。
ふと人気のない湖へと足を向けると、彼は何かに気づき足を止めた。
湖の傍に1人腰掛ける、銀髪の女性。
湖面を覗く彼女を知るコウガは湖へと歩み寄る。
「クレア……?」
後ろからそっと名を呼ぶと、突然の事に驚いたのか彼女はびくりと身を震わせ振り返る。
その色白の頬には涙の痕。
瞳に溜まった雫が一粒零れ落ちた。
潤んだ瞳を目にし、コウガは一瞬息を止める。
「これで二度目だな…泣き顔を見られるのは……」
彼から目をそらすと涙を拭う。
そう言えば、以前も彼女の涙を目にしていた。
初めて出会った頃、海を見つめる彼女は泣いていたんだ。
「思い出すんだ…あの日の出来事を……全てが真っ赤に染まった、血濡れたあの日を……」
呟く彼女が見つめるのは、夕日を映し赤く染まった湖面。
確か以前も、彼女は夕日に染まる真っ赤な海を見つめ泣いていた。
悲しそうに目を細める彼女の隣に腰掛けるコウガは彼女の話に耳を傾ける。
「…地も、家も壁も、草も石も血に染まり、灰色の空さえも真っ赤に思えたあの日……荒れた地に死体が転がり、広がる血溜まりの中に、身体を血で染めた私は1人佇んでいた……
忘れそうになると蘇る……心に宿る闇へと手を伸ばし、血に狂い一族を皆殺しにした残酷な自分の姿が、鮮明に目の前に広がるんだ……」
赤い湖面に映る自分を見つめ呟くと、自分の存在を確かめるように膝を抱き身を縮める。
幼い頃から心のどこかに闇を抱え、その闇に手を伸ばせば楽になれた。
だが、闇に手を伸ばせば自我を失い血に狂い、人を喰らう化け物と化す。
それが嫌で、クレアは1人足掻き正気を保ってきた。
なのにあの日、彼女は闇に身を任せ、一族を皆殺しにしたんだ。
「…怖いんだ……また何時か血に狂い、誰かを殺すんじゃないかって……貴方達の中の誰かを殺してしまいそうで、怖い……」
顔を埋め消え入りそうな声で言う彼女の身体は微かに震えていた。