Blood†Tear

 「御姉様が、私を救う為に皆を手にかけたのです。その際に御姉様自身も命を落としてしまいましたが、それも私を護る為。仕方のない事でした」


先程まで笑顔を見せていた彼女だが、今はとても悲しそうな雰囲気を身に纏う。




 「御姉様は何時も私を護って下さいました。両親が声を荒げるのは自分のせいだと、暴力から私を庇って下さった。バイオリンの音色を誉めてくれたのも御姉様だけ。御姉様だけが、私のたった一人の味方。私の全てを理解してくれる唯一の存在」


 「…待って、ティム……」


 「何です?」


懐かしい日々を思い出すように遠い目をする彼女だが、それを遮るようにシェイラは言葉を発し、現実に引き戻されたティムリィは不機嫌そうに目を細めた。


酷い緊張感の中長い間同じ姿勢で座り続け、疲労の溜まったシェイラは額に汗を浮かべながら言葉を続ける。




 「…貴女には、その……姉は居ない筈です……」


 「何を言っているのですシェノーラ様。私には、1つ上の姉が居たではないですか。お忘れになったとでも仰るのですか?」


 「…否、ヴィネッド家に娘は1人……貴女は一人娘であり、貴女に姉妹は居ませんでした……」


 「…嘘……嘘だわ……ご冗談はお止めになって……そんな冗談、聞きたくなどありませんわ……」

ティムリィはぎこちない笑ってみせるが、シェイラの澄んだ瞳は嘘を吐いているようには全く見えず、一瞬にして顔色を変える。


シェイラの言う事が事実だとすれば、嘘を吐いているのは…




 「…何時も私を庇って、私を護って下さった……御姉様は居ますよ……私には御姉様が―――」


 「でしたら、御姉様の名は何と申すのです……?御姉様は何と呼ばれていたのです……?」


 「名前……」


そうだ…
名を聞けばシェイラも思い出してくれる筈。

御姉様は何と呼ばれていた?
自分は何と呼んでいた?




 「…ティム……」


そうだティム…
両親はティムと呼んでいた…


ティム…?
私がティム…
ティムは私…


だったら、私の変わりに痛みを引き受けていた彼女は一体…




 「…私は…彼女は……誰……?」


両手で顔を覆う彼女は、誰に問うたかもわからぬ疑問を投げかけた。




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