Blood†Tear
目に見えぬ幾本もの弦が揺れ、シェイラの身体を傷付ける。
しかし、今は自分の身を気にしているどころではない。
弦の中に倒れて行き、勢い良く突っ込んだティムリィ。
彼女の現状を想像出来るが考えたくもない。
足元に生暖かい液体が触れ、見下ろせば床は一面赤い血で染まっていた。
血の滴る弦は赤く染まり、その所在を主張する。
目の端に映るティムリィの身体の一部。
恐る恐る顔を其方に向けるが、その視界は彼女の姿を目にする前に暗くなる。
「…見ない方が良い……」
耳元で囁かれた言葉で、何者かの手で視界を塞がれたのだと把握したシェイラ。
何時の間にか、張り巡らされていた弦は取り除かれ、解放された彼女は後ろから回された手に触れると安心したのか頬を涙が伝って行った。
「…ジーク…私は……私は……」
彼女を救えなかった…
彼女を護れなかった…
彼女を理解してやれなかった…
18年前、助けを求める彼女の心の声に気づいていれば、こんな事にはならなかった。
彼女の両親も死ぬ事もなければ、彼女自身が長年苦しみ此処で命を落とす事もなかった。
全ての始まりは18年前。
自分の言動が発端なのだ。
「…ごめんなさいティム……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「自分を責めるのはお止め下さい。これは不慮の事故。貴女が悪い訳ではない」
「…ですが…ですが……」
涙を流し自分を責めるシェイラは何度も謝り続け、何度もティムリィの名を呼び続ける。
そんな彼女をジークは抱き締め、優しく声をかけながら慰める。
彼の胸に顔を押し付け泣く彼女は、彼が傷を負っている事すらも気づかない。
ジークは彼女の頭をそっと撫で、優しく声をかけながら静かに見守った。
床に散らばる楽譜のページを、舞い込んだ風が悪戯に捲る。
その風は、あるページを開くと捲るのを止め姿を消した。
開かれたページに挟まれていたのは、一枚の古い家族写真。
その写真の中で、幼いティムリィは、彼女の両親は、とても幸せそうに笑っていた。