魅惑のヴァンパイア

それからしばらくして、我慢できないほどの尿意が私を襲って、ドアを開けたら、不思議なことにすんなり開いた。


トイレはすぐ近くにあり、用を足して廊下に出た時、ほんの一瞬『今なら逃げられるかもしれない』と思った途端、身体が引力に引っ張られるように、寝室に戻されて、ドアが冷淡な音を立てて閉まった。


もう一度開けようと思い、取っ手に手をかけたけれど、開かない。


『逃げようと思わなければ、いつでも出られますよ』


バドが言っていたのは、こういう意味だったのか。


分かった所で、逃げられるわけでもない。


失意の中、再びベッドに横になって泣いた。


例え逃げられても、帰る場所が私にはない。


そう思うと、再び涙が零れた。

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