魅惑のヴァンパイア
魔界、という世界に来てから数週間が経っていた。
目が覚めると、天蓋付きの大きなベッドの中にいる。
昨夜まで一緒だったヴラドは、いつの間にかいなくなっていた。
気怠い朝。
暖かい日差しが差し込むことはない。
魔界はいつも、濃霧に包まれている。
私は屋敷内だったら自由に歩けるようになっていた。
逃げることは、頭から抜け落ちていた。
今はむしろ、この屋敷から出ることが怖い。
濃霧に包まれた外の世界は、オークション会場での言いようのない恐怖心を思い出しそうだったから。
寝室を出て、一階に降りると、いつも出来立てのパンの匂いが鼻腔を掠める。
その匂いにつられてリビングに入ると、皺一つない燕尾服に身を包んだバドが、礼儀正しく迎えてくれる。
「おはようございます、シャオン様」
「おはよう、バド」
バドは一流のホテルマンのようなしなやかな所作で、素早く朝食の準備をしてくれる。
私は、突然お金持ちのお嬢様にでもなったようで、なんだか胸の奥がくすぐったい。
悪い気はしないけれど、あまりにも身分違いで……。