もてまん
「わぁ、何だか大人の雰囲気だね」
舞が小さな声でささやいた。
繁徳は、慣れない場所と状況に何だかいたたまれない。
口に運ぶ料理も、砂を噛むようで味などしなかった。
発する言葉とウラハラに、美味しそうに料理を口に運ぶ舞を見て、繁徳は驚いていた。
(女って、度胸があるんだか、大胆なんだか、こんな状況でよく食えるよ)
また、スポットがあたって、今度は千鶴子の姿が浮かび上がる。
薄紫色のスパンコールを散りばめた、タイトなマーメイドスタイルのロングドレス。
肩から腕にかけてを薄いシフォンで覆い隠し、その大胆なデザインを清楚に纏めていた。
「ドレスも素敵だね」
舞はうっとりとその姿に見とれていた。
千鶴子の華奢な身体が、いつにも増して大きく見える。
ピアノにスポットが当たった。
そこに現れたのは、あの蝶ネクタイの老紳士。
静かだけれど、弾けるようなピアノの響きが店内に広がった。
千鶴子がマイクに向かう。
少しかすれた低い歌声、胸の奥に届くような深い響き。
(これが千鶴子さんの歌か……)
フランス語の歌詞はチンプンカンプン。
だけど、ピアノの調べに乗せた千鶴子の低い歌声が、真っ直ぐ繁徳の胸に届いていた。