もてまん
「千鶴子さんの歌、いいね。
あのピアノもすごく上手い……」
舞が軽く身体を揺すりながら呟く。
千鶴子の歌を聴きながら、二人は次々と運ばれくる料理を平らげた。
食欲が満たされ緊張感が解れたのか、繁徳はやっとあたりを見渡す余裕が出来た。
十ほどあるテーブルは、ほぼ満席。
どのテーブルにも、かなりの年配者が座っていた。
身なりのいい老夫婦、ご婦人のグループ、中には、老紳士の一人というテーブルもある。
みんな千鶴子のファンに違いなかった。
小一時間もたっただろうか。
食事が終わり、舞は嬉しそうにデザートのアイスクリームを口に運んでいた。
その時、二人の耳に千鶴子の思いがけない言葉が聞こえた。
「では、休憩に入る前に、私の今夜の大切なゲストのために一曲。
若い二人の開ける未来に、〈星に願いを〉」
千鶴子がピアノの調べに乗せて日本語で歌い出す。
繁徳は舞と顔を見合わせた。
舞が嬉しそうに、繁徳に向かって微笑んだ。
(何だか、変な気分だ)
千鶴子の深い歌声が詩を奏でながら、二人に向かって語りかける。
舞は静かに瞳を閉じて、千鶴子の歌をなぞって唇を動かしていた。