もてまん

いつもは予備校の授業があるので、繁徳のシフトは夕方の五時から八時の間だった。

この日はたまたま予備校が休みだったので、繁徳は初めて、昼の早い時間帯にシフトを入れたのだ。

昼少し前に開店するこの店は、夕方は結構切れ間なく客が来て、一息いれる間もないくらの忙しさなのだが、この時間帯は人影もまばらで、繁徳は手持ち無沙汰に感じていた。

だから、こんな風に声をかけられたのも、それは繁徳にとっても初めての経験で、どう対処して良いか戸惑うばかりだったのだ。

繁徳は店内を見渡した。

店内には、他に人影はない。

繁徳は怪訝そうに、聞き返した。



「おれのことすか?」

「当たり前だろ、あんたしかいないよ」



その声には妙な張りがあった。
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