もてまん


「いやなにね、いつも気になってたんだよ。

あんた、素質があるのにもったいないってね」

「何の素質すか?」

「『もてまん』の素質さ」


老婦人はそうささやくと、ほかに客がいないのを確認するように、後ろをくるりと見渡した。


「あたしだって、こんな歳でも、はじらいってものがあるからね。

こんな話、誰彼となくする訳じゃあないよ。

今日はたまたま、店にはあんた一人のようだから、思い切って声をかけてみたのさ」


自分一人に関係する、秘密の話。

そんな甘い響きに、繁徳もつい耳を傾けた。


「あんた背格好もまあまあ、顔だってそこそこなのに、その髪型がいけないね。

清潔感がない」

「毎朝洗ってますけど……」

「実際に清潔かどうかより、見た目が大切なのさ、『もてまん』には」
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