愛した分だけ返ってくる
もちろん、メルはいままでわがまま1つ言わない物わかりのいい賢いおとなしい子供でした。

でも、会場を出る時、そんなメルの足を止める物が目に入ってきました。

それは

大きな大きなイルカの時計でした。

メルの顔の三倍はあります。

お母さんが出口から見えなくなっても、それが気になって不安になっても、メルはその時計の前から動きませんでした。

“欲しいな”

メルは思いました。

“でも…こんなに大きいんだもの…きっと高いわ”

メルはお金を持っていません。

お母さんを思ってもう一度出口を見ました。

すると、お母さんが苦笑いしながらこちらにやってくるではありませんか

「メ~ルっ」

「どこに行ったかと思ったらここにいたの?」

「…」

「やっぱりねぇ~…」

お母さんは答えないメルを横目にため息を吐きながらいいました。そして、

「いいわよ」

メルがばっとお母さんを見上げます。

「どれ?」

メルは迷わず大きな時計を指差しました。

お母さんはびっくり

お値段を見て、メルを見て

「お誕生日プレゼントとクリスマスが一緒になっちゃうわよ?それでもいいの?」

お母さんが目を見開いてメルに聞きました。

メルは黙って頷きました。

「そぅ…」

お母さんは一言いうと時計を買ってくれました。

「メル、受け取って」

メルは初めて自分の欲しいものを手にした喜びを覚えました。

幸せで胸が一杯でした。

誕生日プレゼントやクリスマスだってメルは“欲しいもの”なんて買ってもらったことがありません。

いつも、お母さんが暖かいタオルケットや手袋靴下バスタオルにランドセル…生活に困らないような物を買って与えられることばかりだったからです。

メルはその大きな大きな時計を両手で抱きかかえながら、お父さんの待つ車に、お母さんの後ろをちょこちょこと置いていかれないようについて行きました。



             ★おしまい★

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