木霊の四辻
「はあ。ぼさっとしないでください。ンで? 八木先輩の時はそうだったとして、今現在、今野先輩はどんなふうに呪いを受けてるんです?」

「……いま、話したのと同じ、ことだけど」

「自分の声が聞こえるんですね」

「ええ、そう……。やっぱりひとりの時で、いつも四辻で……」

実際に木霊を聞いた時のことを思い出しているのか、俯く今野の表情は暗い。

「声、だけなんですね」

「ええ」

「なにか、怪我をしたりは?」

「……ないわ」

「ものが動いたり足音がしたり、妙な影を見たりは?」

「な、ないわ……」

本当に声だけらしい。もともと、山びこを説明するために生み出された精霊なのだ。それ以上の行動、それ以上の姿はない。文献などには時々、木の幹に人の顔が浮かんでいたり、人間の形をした木のようなものが精霊という名称で描かれているが、あくまで偶像である。

(声だけなのに、そこまで怖いものかしら)

とゆいは考える。

(決して、直接的被害が出ているわけじゃない。四辻で木霊を聞き、呪いによって精神がすり減らされていく。それも急速に……。声だけで、本当に、ここまで……?)

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