木霊の四辻
連れない返事の拍子木とゆいは、教室の外にいた。中の会話を立ち聞きするためである。

風紀委員による権力行使――人払いによって一年一組の教室には今や、瀬戸岡亜美と千里ヶ崎燈哉の二人きりである。一時的な人払いによってこのシチュエーションが作られたことを、瀬戸岡は当然知らない。彼女に不信感を与えないためにも、この人払いはせいぜい十分が限度だった。共有グラウンドからは、初等部の児童の黄色い声が、中等部の男子や高等部の男子がサッカーなどを楽しむ声が、すぐそこの日常として聞こえてきていた。

「そういや瀬戸岡さんさ、木霊の四辻ってどう思う?」

唐突に燈哉が切り出した。時間は限られているにせよ、単刀直入過ぎるが――燈哉は飾らない言葉遣いが上手い。むしろ自然だった。

「木霊の四辻……怖い、よね。いろんな人が聞いたって言うし」

そのためか、瀬戸岡も平素の様子で答えている。瀬戸岡も飾らない言葉遣いが上手い。男子と二人きりというシチュエーションにも、特別な緊張感を抱いていないようだ。

状況に問題はない。あとは千里ヶ崎燈哉の口車がどれほど通用するかである。

< 55 / 94 >

この作品をシェア

pagetop