木霊の四辻
大野の持つスプーンには、彼女がほかの被害者に与えてきていたのと同じ薬物が仕込まれている。瀬戸岡がそうしたように、大野も、そうしている。いや――大野がしていることを、瀬戸岡が他人に繰り返しているのだ。

それが、怪異の謎を解かせた。

「でも、どうしても引っ掛かったのが、動機だった。人望にも恵まれ、家柄的にもなんら不自由のない瀬戸岡さんが、そんなことをしてどんなメリットがあるの? 考え付かない。そこで浮かんだのが、アンタよ、大野」

「教師を呼び捨てにするのか」

「アンタに、教師の肩書きなんて名乗らせやしないわ」

切り捨てて、言葉を突きつける。

「瀬戸岡さんから聞いたのよ。誰かに言われて、みんなのところへ回っているんじゃないかって。そしたら彼女、なんて答えたと思う?」

「……」

「木霊に言われて、だそうよ。あれは、彼女なりのSOSだったの。木霊の存在を信じていなかった私には、それが比喩であることさえ、気付けなかった」

「……」

大野が、スプーンを手から離した。高い音を立てて転がったそれを、瀬戸岡が拾い上げ、舐める。普段の様子からは思い描けないクラスメイトの姿。彼女をそんな風にした大野が、憎らしい。
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