木霊の四辻
部屋の中へ、見つけ出したいくつかの小型スピーカーを放る。本体はまだ、瀬戸岡亜美が持っているだろう。彼女の所持するボイスレコーダーから音声を受信できるタイプなのは、調べがついていた。

「瀬戸岡さんはそうして木霊の四辻を演出し、被害者がある程度参った頃合いを見計らって訪ねる。この時に、手作りの料理を持ってくの。少量の、幻覚剤を仕込んで」

「……」

「あとは簡単よね。幻覚剤で脆くなってる精神に、追い討ちをかければいいの。結果、木霊の呪いは現実化する。瀬戸岡亜美はその後も被害者のところへ通い、幻覚剤と、鎮静剤を交互に与え続ける。そうすることで、木霊の呪いの強弱は彼女の采配ひとつに委ねられていた」

現代の木霊は、過去現在を関係なく何度でも声を再生できるレコーダーと、幻覚剤の増幅作用が生み出した、紛い物だったのである。

ゆいが相田の部屋にあったおかゆをすぐに吐き出したのは、中に薬が含まれているからだった。ゆいも、ただの一般人ではない。毒味ぐらい心得ている。

「あー、あー」と唸っている瀬戸岡は、自分の話をされているなど、微塵も思っていないだろう。その目は、大野の手に、スプーンに注がれていた。
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