マジック・エンジェルほたる
「でも…お母さん…可哀相でしょう?」
両手をきつく握り合わせ、目を遠くのあらぬところに泳がせ、すがるような表情で有紀はいった。そして、泣きそうになりながら、
「ねぇ、お願いよ、お母さん。……捨てるなんて嫌なのよ。だから」
「ダメよ!これは命令よ、捨ててらっしゃい」
静は限りない冷たさに満ちた顔でいった。有紀は何も反論できずに黙り込み、下を向いて涙を堪えて立ち尽くした。ひどく悲しい気持ちだった。こんなにも自分の母親が分からず屋だったなんて…。
まるで大蔵省のエリート役人みたい…。
有紀はしかたなく、子犬を元のダンボール箱の中へ戻した。そして、じっと立ち尽くして顔を曇らせて、泣きそうな視線を向けた。
くんくんと子犬は可愛らしく泣いて有紀を呼んでいる。ーどうしたらいいの…?
彼女は冷たい雨に打たれながら悲しみの中で黙り込むしかなかった。
「……ごほっ、ごほっ」
しばらくして、有紀はセキ込み、額に右手をあてて凍り付いた。ひどい無力感や哀れみに襲われて堪え切れなくもなった。私は無力だわ…彼女は自分をせめた。
そしてまた有紀は、じっと立ち尽くすだけだった…。
例の”出来そこない”のふたり組(蛍と由香)は相変わらずだった。時刻は朝の小休みの頃。ふたりは青山町学園の廊下を明るく笑いながら並んで歩いて、
「いや、はや…まいったっしょ。抜き打ちテストなんてぜんぜん出来なかったよ」
「まあね。私も。数学じゃあねぇっ。美術ならさぁ、楽勝なんだけどさぁ」
「…美術の抜き打ちテストなんてあんの?」
「…あったらいいなぁ。なぁーんてさぁ」
「じゃあ私は……アニメのキャラクター・ネーム(登場人物の名前)当て、とかさぁ。アニメ・ソングのイントロ当てクイズとかさぁ」
「馬鹿じゃないの?」
ひたすら低レベルなふたりである。