マジック・エンジェルほたる
 しかしそうした脳天気なピーヒャラピーヒャララ…という二人組とは別に、黒野有紀は掲示版の順位表を凝視して愕然と立ち尽くしてしまった。表情を凍らせ、激しくセキ込んでしまった。両手を胸のすぐ前で握り合せて、表情もなくした目でうつろに『表』をみつめていた。氷のような表情…どこかへ飛んでいってしまいそうな目だった。
「あ、有紀ちゃん。何みてんの?学級新聞の四コマ漫画とか…」
「馬鹿じゃないの?あんたじゃあるまいし…」
 すぐに由香が蛍にそう言った。有紀ちゃんが「馬鹿じゃないの?!」などという言葉を使うことはありえないことだ。こういうのは皮肉屋で絵画オタクの赤井由香の台詞だ。
「……」有紀は何も答えずに、ごほごほとセキこんで黙り込んでいた。頬が赤く火照っているようだ。風邪をひいたのかも知れない。
「あの……どうしたの?有紀ちゃん…」
 しかし、有紀の視線は『表』に向けられたままで、その顔は打ちひしがれていた。ふたりは不安気な不思議気な顔で順位表に目を向けると、
「…あれっ?あれ?あれ?あれっ?」
 と声をだした。由香は、「印刷ミスじゃないの?有紀ちゃんが学年で32位だなんてさぁ。あの横沢葵とか森山なつみより下なんてさ。…ミス・テーク(プリント)…ね」と言った。「そう、ミス(間違い)っしょ!ミス!!……ミス?…ミスって結婚してない女性のことじゃあ?」
「(無視して)あの…有紀ちゃん、有紀ちゃん?元気だして。あんまり気にすることないってるいつものトップじゃなくて32位だけどさぁ…私たちよりはずうっとマシな訳よ。だいじょうぶ!有紀ちゃんってば頭いいんだから、すぐにトップに返り咲くわよ」
 蛍は「…あ?!由香ちゃんってば…さっき印刷ミスって宣言したじゃんよぉ」といった。「(無視して)…とにかく明日にゃ明日の風が吹くってことだから…元気だしてね」
「そうそう。”持てばカイロは温かい”ってもいって…」
「”待てば海路の日和あり”(我慢していればやがてよいことがおとずれる)よ!この馬鹿蛍っ!!」
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