マジック・エンジェルほたる
誰にでもなんらかの特技があるものだ。どんな人間にだって平等にチャンスは与えられる。そうしたチャンスを生かせないのは努力をしないからだろう。タレント(才能)などというものはダイヤの原石と同じで、磨かなくては光らないものだ。…そうした努力を、まがりなりにも、赤井由香はしているように思う。…レイジー(怠け者)の蛍とは大違いだ!
由香は、午後の部活の時間に、学校の美術室で静物をなにやらニヤニヤとしながらスケッチしていた。もちろん椅子に座ってだ。だけど、広い室内には誰もいなかった。
別に美術部員が赤井由香だだひとり…という訳ではない。単に、他の部員は「無気力」なだけであり、また由香ほどの才能もないだけ。だからサボってるのだ。
別に美術部員というものは、日本中の学校でもそうであるように五人くらいいればマシな方である。蛍と由香の学校と有紀の通う青山町学園では六人なのでかなりいい方なのだ。そしてどこでもそうなように、担任は「画家になれなかった」美術の先生であり、例によってこの先生もサボッているっていう訳である。
孤高のアーティスト由香はたった一人で……などと書いても仕方がない。
いつのまにか蛍が美術室に忍び込んでいて、真剣な表情で由香の背後から「絵」を覗き込んで、
「いやぁ、さすがは、天才画家”赤井たからばやし”の娘だねぇ。上手なもんだわ!」
と、感心してほめた。
「たからばやし…じゃなくて宝林(ほうりん)よ!宝林(ほうりん)!」
由香は少し呆れ顔でいった。蛍は、
「…そ、そんなことわかってるわよ。ジョークよ、ジョーク!」なんて言ってる。
ちなみに蛍は部活動はなにもやってない。幼稚さを生かして「マンガ部」にでも入部すればいいのかも知れない…。
「ねぇ、蛍」由香は、フト、筆を止めて、素直な顔で横にいる親友に「あんたも描いてみる?」と笑顔をみせた。
「うん、いいよ」蛍は自信たっぷりに返事をして「まあー…みててよっ。この蛍ちゃんの才能、才能ってもんをお見せするっしょ!!」
と、いってサラサラと何かを描きあげた。