とろけるチョコをあなたに
「溜息をつくと幸せが逃げるって言うけど、今日だけで一体どれだけの幸せを逃したのかしらねえ。あんまり辛気臭い顔をしているとそのうちカビが生えるわよ」

 からかうようにオレに話しかけてきたのは隣の席の伊勢村千沙子。

 気が強そうだが整った顔立ちに唐茶色の腰まで届く長い髪。

 細身なのに出るところは出ているという素晴らしいプロポーションの持ち主でもあった。

「うるさい」

 面倒になって投げやりな返事をしたが、千沙子は意に介さずに椅子ごと体をオレのほうに向けた。

「元恋人に対して随分な返事だこと。まったく、その姿をキャーキャーあなたに群がる女どもに見せてあげたいわ。

 知ってる? あなたがフリーなのをいい事に、生意気にも告白を目論んでる輩の多いこと。さぞかし大変でしょうけど、せいぜい頑張ってね。オホホホホ」

 愉快そうに不吉な予言をした千沙子は声を上げて笑った。
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