春風に流される
牧村がそう言った時、ビュンッと突風のような春風が吹いた。
朝方から雨が降るとニュースで言っていたので、その雨雲のせいだろうか?
何の前触れもなく吹いた風が、牧村の髪をなびかせて横顔があらわになった。
頬に流れている涙。
噛み締めている唇。
「こっち見るなっ!」
頬に流れた涙をゴシゴシと袖で拭いて、そっぽを向く牧村。
「春風に流しちゃえば?」
思わず牧村の左手を掴み上げ、突然、思い付いた様な言葉を表に出した。
「はぁ?訳が分からない」と言われて嫌な顔をされたが、俺はめげずに伝えた。
牧村を元気づけたかったから。
「…いや、だから、春風に流しちゃえよ。悔しい気持ちとか寂しい気持ちとか、そーゆーのを…」
「ばぁーかっ!」
手を振り払おうとする牧村を阻止して、自分側に引き寄せる。
「…ついでにもう1つ、流されてみる?変な男に引っかからないように俺の側に居なよ」
その言葉を聞いて顔を上げた牧村はとても可愛らしくて、強く抱きしめる。
「…仕方ないから流されてやる。…人の気持ちも知らないで…っふぇ、…っ」
俺の胸に顔を埋めて、か細い声で小さく聞こえた『ずっと好きだったの…』の言葉。
鈍感な俺は高校時代、そんな気持ちを牧村が抱いていたとは知らずに過ごしていた。
ただ、牧村と過ごした日々が楽しかったのは確かな真実。
抱き締めた牧村は折れそうな位に華奢で、ふんわりと良い匂いがする。
牧村が夢を叶えるのを見届けてあげたい。
側に置いて置きたい。
そんな感情がふと表れた夜。
心の奥底では好きだった?
俺が素直になれなかっただけ?
青春時代の思い出を掻き消すかのように吹いた春風。
これからは新しい日々がスタートする、そんな予感がした夜の春風───……。
◆❖◇END◇❖◆
朝方から雨が降るとニュースで言っていたので、その雨雲のせいだろうか?
何の前触れもなく吹いた風が、牧村の髪をなびかせて横顔があらわになった。
頬に流れている涙。
噛み締めている唇。
「こっち見るなっ!」
頬に流れた涙をゴシゴシと袖で拭いて、そっぽを向く牧村。
「春風に流しちゃえば?」
思わず牧村の左手を掴み上げ、突然、思い付いた様な言葉を表に出した。
「はぁ?訳が分からない」と言われて嫌な顔をされたが、俺はめげずに伝えた。
牧村を元気づけたかったから。
「…いや、だから、春風に流しちゃえよ。悔しい気持ちとか寂しい気持ちとか、そーゆーのを…」
「ばぁーかっ!」
手を振り払おうとする牧村を阻止して、自分側に引き寄せる。
「…ついでにもう1つ、流されてみる?変な男に引っかからないように俺の側に居なよ」
その言葉を聞いて顔を上げた牧村はとても可愛らしくて、強く抱きしめる。
「…仕方ないから流されてやる。…人の気持ちも知らないで…っふぇ、…っ」
俺の胸に顔を埋めて、か細い声で小さく聞こえた『ずっと好きだったの…』の言葉。
鈍感な俺は高校時代、そんな気持ちを牧村が抱いていたとは知らずに過ごしていた。
ただ、牧村と過ごした日々が楽しかったのは確かな真実。
抱き締めた牧村は折れそうな位に華奢で、ふんわりと良い匂いがする。
牧村が夢を叶えるのを見届けてあげたい。
側に置いて置きたい。
そんな感情がふと表れた夜。
心の奥底では好きだった?
俺が素直になれなかっただけ?
青春時代の思い出を掻き消すかのように吹いた春風。
これからは新しい日々がスタートする、そんな予感がした夜の春風───……。
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