零~ZERO~
貴矢の精神状態は限界だった。

『俺、もうだめ。気が狂いそう。』

いつもの帰りの車の中で暗い顔をしている。
セックスはしないと約束してから、私も貴矢も、お互いの約束を守っていた。

だけど、貴矢は、時々店に来てしまう。
オナニーをしない代わりに、次第に時々が毎回になっていた。

早川にも、
『坂井さん、凄いねー。』
と、言われた程だ。


貴矢は、
『もうお願い。
期日を決めて辞めて。
俺は、零が店に行くと絶対行っちゃうよ。
お金だって限りがあるし。
お願い。』



私は、悩んだ。

彼氏が居るのに、風俗で働く…普通に考えたら、オカシイ。
別に借金が有る訳でも、特別な事情がある訳でもない。

"自ら選んだ崩壊への道。
楽に稼げる事と、何も考えたくない。人のぬくもりを求める為だけに始めた仕事"

その中で、貴矢に出逢う事が出来た。

それだけで、大きなものを得たんじゃないのか…。私を守ろうとしてくれる。

こんなに想ってくれている人が居るのに、何故意地張って続けてる?

…段々、自分のしている事が虚しくなって来た。
貴矢の言っている事は、真っ当だ。



マンコも疲れた。


10月に始めた風俗を5月で辞める事にした。


早川には、
『彼氏が出来たから。』
そう告げた。


早川のキスもハグも、もう嫌だった。
他の女の子と、やってくれと思った。

早川は、呆気に取られ、少し悲しそうな顔で、
『そうかぁ。俺は2番目になった訳ね。』
と言っていた。


他の従業員が居る中で、堂々と言うから信じられない。
< 50 / 84 >

この作品をシェア

pagetop