俺をオトしてみろよ。~愛しのドクターさま~
そんなお母さんの言葉に、あたしの耳に付いているアンテナは反応して。
しょぼんとふて腐れていた顔は、一瞬にして喜びとニヤケが混ざってしまって。
「い、今…なんて?」
「柚の隣の部屋を朔夜君の部屋にしたのよ。ホラ、あそこ由希(ゆき)の部屋だったから、ずっと空き部屋だったでしょ?」
お母さんの言葉の途中に出てきた“由希”とは、あたしのお兄ちゃんの事。
あたしより二つ上で、今年から国立大学の医学部に通い始めた。
現在は家を離れて一人暮らしをしている為、お兄ちゃんの部屋はずっと空き部屋となっていたのだ。
「―――お兄ちゃんっ、出て行ってくれてありがとー!いや、本当に感謝してるから!!」
勢いよくイスから立ち上がり、拳を突き上げながら叫ぶあたしを、他の三人はきっと不審な目で見ているだろう。
「柚は誰に話し掛けてるんだ?」なんてお父さんの呆れ声を無視しながら、あたしはマイダーリンの腕を掴んだ。
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