視線の権利


「あー! それはコットンに含ませてまんべんなく塗るタイプ! もっとたっぷり!乳液は手で丁寧に! 冬でも紫外線カットメイク下地!」


「う、うん……うぎゃ!」

「ファンデは叩き込む! 小鼻にそんなにつけない!コンシーラーはファンデの上から!

ビューラーは根元から!天まで届くように!」

「いででで!」

「痛くない! マスカラ下地乾いたら乾くごとに3回塗り! ビューラーもう一回!」


体育会系部活の朝練みたい?

そんなこんなでつけまつ毛まで。マスカラの上に?


「アキノぉ、まぶたの裏もアイライン?」

「基本!」


ハイ! コーチ! という元気もなくお次は髪。くりくりカール。

髪の上をしっかり高く結いあげられて大きめの黒いおりぼん・・・・・・。


下着は

「前のオトコにもらって使ってないから」

とフリフリのド!ピンクのショーツをもらってしまった。

きっとサイズが大きめだったんだろうなー。

ちょっといじける。ブラはさすがに細いとはいえ彼女のEカップは無理なので昨日のまま。
今日だけだし・・・・・・。下着だし。

服は千鳥格子のなんとか大人しめのモノトーンのスーツを借りることに。


ボトムは奇跡的にぴったり。でもこれアキノが着たら超ミニよね?

トップスはやはり背の低い私にはちょっとぶかっとしたけど、まあ、仕方ない。

私が服を選んでいる最中にアキノは入念に身支度して朝食まで用意してくれた。

「早く食べて!」

「う、うん」

ほどよくこんがりのクロワッサンとスクランブルエッグに

あったかいカフェオレ。

もっとゆっくりおいしい朝食を楽しみたかったけど……。

時間がな    い    !

超高速のアキノの運転に悲鳴をこらえながらなんとか会社には間に合った。


ふたり分のタイムカードの音を聞いて
「同伴出勤ー?」

と、からかう男性主任の顔が

ゼェゼェ言いながら
「おはようございます」

という私たちを見て


凍りついた。










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