[妖短]空の境界線を越えて
「あの…五十嵐?」

「何?」

こちらを振り返った五十嵐が目を細める。
あ、夕日見ちゃったのかな。

「あのね。昨日の昼休み。
妖怪の絵を見せてくれたでしょ」

「あぁ。うん。見越入道だったよね」
五十嵐はすぐさま答える。

「う、うん。あのね。
その話途中だったから…」

五十嵐の腕がにゅっと伸びて、
「だめだよ。横になってなきゃ」
おでこを押されて戻される。

五十嵐のマイペースさにイラッとくる。
うぅう。いけない焦っちゃってるなぁ。

「うん。で、あの。その話の続きを聞きたいんだけど…」

五十嵐は時計をチラッと見て
「興味持ってくれたのは嬉しいけど、オレ今日時間が…」

あぁぁ。そんなぁ。

「明日にでも…」
「土曜」
私がぼそっと言うと、五十嵐が苦笑いを浮かべて、
「急ぎ?」

その言葉を聞いた途端に怖くなる。


また出るの?
また夢を見るの?

毎日。毎日見る。

何でいつも同じ夢なのよ!


黙って俯いてしまった私を心配して五十嵐がウロウロしているのが分かる。


あぁ、もう。ごめん。

気にしないでって言えない。
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