カナリアンソウル
第四章 記憶

奇跡

ただなんとなく。


「お姉ちゃんも病気?」


車椅子に乗った女の子。


乾燥肌なのか、
病気だからなのか、


瞼にクシャクシャなシワを寄せて笑った。


『あたし、病気に見える?』


ただなんとなく
立ち止まって、


「分かんない」


ただなんとなく
目を瞑ってみる、


「見た目だけじゃわかんない病気っていっぱいだよ。だって、心の病気だってあるじゃない?」


歳上のあたしより、何倍も大人びた笑顔。


『あんた大人だね。尊敬通り越して怖いよ』


ただなんとなく
背中押されるように、


「何で?お姉ちゃん、あたしより大きいでしょ?だから大人じゃない」


それは…、どうかな。


『確かに“大きいのは”ね。でもね…』


ただなんとなく
前を見るのが怖くて、


『体が成長したり歳だけとったりしても、大人とは言えないんだよ』


そう。


今の自分は大人とはとてつもなく掛け離れた、その辺の子供の遊びで作られた泥団子のようだ。


「あたし早く大人になりたいの」


ただなんとなく…


「この病院にいる人達、皆悲しい思いしてるから…」


汚い世界に安心した。
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