カナリアンソウル
予想に反してひろみ達はほとんど別行動。

祭り会場に着いて数時間経つが相変わらず、緊張が解けないでいた。

シーンと静まった空気は嫌ではなかったけれど、長時間耐えられるものではない。

外には少しだけ涼しい風が吹いていた。

「化粧濃いな。俺的にはそっちの方が好きだけど、いつもみたいにガキみたいな顔じゃないし」

「はあ?もっと、可愛いね、とか言い方ないの?」

「冗談。いつもより可愛いなと思ったって」

私は後ろ髪で遊ぶ貴の顔を見上げた。

ときどき擦れる貴の服が良い香りを放つ。

私の好きな匂い。

「あの、さ。私達これからもこんな感じなのかな」

言葉の意味がつかめずキョトンとしていた貴だが、

「なんか期待してんの?」

とニヤニヤしながらずるずると開けたばかりの焼そばを吸い上げた。

「バカ…」

ごめんと、貴のか細い一言だけが静かに響いた。

謝るくらいなら最初から誘ってこなければ、と思っても言葉が出ない。

私は居たたまれなくなって、貴と少し距離をおきながら無言のまま歩き続けた。

本当のバカはあたしだ。

好きな相手にあんな顔させた挙句、自分が可哀想に思えてるんだから。
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