カナリアンソウル
夜、貴は家の前に来て自転車のキーを咥えながら、肉まんの入った袋を渡してきた。

貴が卓人の母親が再婚相手なのは知ってると言ったのを聞きながら、私はすっかり落ち込んでしまった。

何せ二人が知っていたことを、私は何も知らなかったからである。

気にすることかよと貴が肉まんをしきりに食べる手前で、これから先とてもひろみの役にたてそうにないと言った。

「そっ?」

これはときどき見せる、彼なりの必死な作り笑い。

このあたしでも分かるぐらい下手。

袋から肉まんを出す途中、ふいに顔を上げると貴と目が合った。

「俺の顔に何か付いてる?もしかしてチュウして欲しいとか?」

「しない!人が真剣なときに恥ずかしいこと言わないでよね」

私の姿に何かを思ったらしい貴が、「んな、心配しなくても大丈夫だって」と片眉を少し下げた。

「心配?なんの?私は心配じゃなくてショックなの!」

私の頬を両手でつねったあと、耳元まで近づいた貴。

「安心しな。いつかお前にも家族つくってやるから」

 ……………。

「すいません。家に入ります。さようなら」

「なんちゃってー♪」

「ばかっ!ふざけないでよね!」
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