彩の探し物‡椋の落とし物
未知~エピローグ~
弘美の声が頭に響く。
短大生になってから「家賃が浮く」と彩のアパートに上がり込んだのは許せても、居候で妹の分際で朝から騒ぐ弘美を、彩はあまり快く思っていない。
かと言って彩は、弘美が来るまでは暇な春休みを過ごしていたので、追い返す気にはならなかった。
今日もまたバイトだ。
学校では綺麗と言われている長い髪も、寝ぐせでペタンコになっている。直すのに15分、その後に着替えて出勤するとなるとまた遅刻しそうだ。流石にそろそろクビになりかねない。
彩の家は父親が医者で、仕送りも月に20万円も送られている。なのに彩がバイトをするのは、日々の生活に刺激を求めたのだが、正直ダルいだけだ。
学校での勉強も将来に役立ちそうにないし、つまらなくて死んでしまいたいと思うこともある。
しかし彩は、自分が今、何を求めているのかはっきりと分かっていない。
金か、地位か、名誉か、愛か。
それを知るために、今日もバイトに行くのである。
髪を整え終えた彩は、50秒で着替えを終え、玄関のドアを開いた。
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