フォトグラフ
★ four scene 『あの頃の僕ら』
「さっちゃーん」
泥の付いた手で擦(こす)ってしまっただろう顔に満面の笑みを浮かべ、
『さっちゃん』に思い切り手を振る。
「ゆうちゃん!!」
サラサラな黒髪を持つ女の子が二階の窓から嬉しそうに顔をだした。
「お団子作ったんだ!ここおいとくから後で見てね!」
そう言って男の子は、女の子の家と庭を囲む塀にある開き戸の隙間から手を伸ばし、
開き戸のそばにある花壇にソッとお団子を置いた。
「ありがとう!ゆうちゃん大好き!」
女の子は顔を綻ばせ喜んだ。
その顔と女の子の言葉を聞いて、顔を真っ赤にした男の子は、
「じゃ、じゃあまたね!」と慌てて走り去っていった。
その後ろ姿を見えなくなるまで女の子は見つめた。
すると窓から眺めていた女の子後ろから、
「皐月(さつき)!?何してるの!早くピアノの練習しなさい!」と叱責(しっせき)の声がとんできた。
その怒鳴り声にビクッとなった女の子は、
半泣きの顔でごめんなさいと言うとピアノの前に座り直した。
「一時間練習したら、今日は三時からお塾がありますからね、
ちゃんと今日習うところ少しお勉強しなさいね。」
向こうは優しく言っているつもりだろうが、皐月にすれば、いや子供にすれば厳しい。
それが母親ならなおさら…。