誕生日には花束を抱えて【完】
「ただ。愛は、痛み止め以外の治療はしない。心電図モニターも点滴さえも、いっさいの管をつけたくないと言ったんだ」


おじさんは険しい表情をして、言った。


「だから、覚悟はしておいてほしい。そんなに長くは一緒にいられない、と」


おじさんには、きっと、わかっている。


「あの……愛は、いつ頃まで――」


おそるおそる尋ねると、


「この、桜の花が見られたら……いいな」


大きな桜の木にそっと手を伸ばし、


「ワタシの夢はね」


桜の幹を愛おしそうに撫でながら、おじさんは言った。


「いつか愛が連れて来るであろう結婚相手を、一発殴ることだったんだ」


可愛くて、素直で、頭のいい、愛は、自慢の娘だったに違いない。


「もう、病室に戻った方がいい。愛が待ってるよ」

「……はい」


おじさんを残して病室に向かったが、気になって振り返ると。


おじさんは桜の木を見上げていた。


きっと、涙がこぼれないように――。

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