HEMLOCK‐ヘムロック‐
 誰もが黙ったまま界を見ていた。彼に今問われているのは、

紅龍會の人間なのか、否か。


 界は礼二の質問に首を横には振らなかった。が、縦にも振らない。

 実際よりも永く感じられる沈黙を破ったのは盟だった。


「界は紅龍會の人間ではないわ。過去も現在も」


 しかしその言葉をイオが否定した。


「そうかな? メイが紅龍會の人間だったと言うなら、黒菱 界も紅龍會の人間に当てはまるよ」


 その言葉に盟はイオを酷く睨む。彼の表情は罰が悪そうではあったが、意見を覆す意志は見受けられない。


「界。お前に訊いているんだ」


 礼二の視線をこれほどまで痛く感じた事は、おそらく今まで界には無かっただろう。
界は観念して重い口を開いた。


「俺は、紅龍會の人間じゃ、ない」


 礼二が界に問い掛けた瞬間から息を止めていたかの様に、泉は大きく息を吐いた。
まるで興信所の空気は界と盟について審議している裁判所の様だ。


「だが……、俺の親父とお袋は紅龍會の人間だった」


 界が続けた言葉で興信所は再び沈黙を迎えた。


「俺の両親は紅龍會の組織を裏切って、組織のあった中国から日本に逃亡したんだ。
子供の俺と妹、そして当時組織の人間だった盟を連れて……」





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