HEMLOCK‐ヘムロック‐

『不思議な色。アートスクールの学生さんみたい』


 ヘスティアはシートに肘をつきながらまじまじと界を、
正確には、アシスタントでは無い事がバレ、観念してカツラを取り去った界の白い頭髪を見ていた。

 黒張りのベンツは、今や広い一般道を走行している。こんな車がこんな道を走るなんて、組織の車の割には酷く目立つ。

 界が外を気にしているのを察したヘスティアは、フォローを入れた。


『この車が向かうのは、ユノー製薬会社の科学研究所。表向き紅龍會とはなんの接点もない。怪しまれる事なんてないから』

『……』


 考えてみればその通りだ。だからこそ、最初の潜入場所に選んだハズだと言うのに。

界は今、この女の出現でかなり動揺している。用意してきた作戦も、今後の予定も何もかもが狂ってしまった。

 ヘスティアの事はイオから聞いていたのに、もっと注意すべきであったと後悔する。


『ねぇランディ? 彼はあなたのどんなアシスタントなの?』


 アシスタントでは無い事など分かりきっているくせに、ヘスティアはわざと、しかも楽しそうにそんな質問をした。

 界は何も言わず、とにかく少しでも冷静さを取り戻す事に必死であった。
ヘスティアを、この女の心理の裏側を見極めなければと。


『だから“本業”の方のだよ』


 ランディは銃を構える仕草を付けながら説明する。
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