ミモザの朽ち木
ミモザの木の下に三人が並び、彼はカメラを構える。


ファインダーから覗く小さな四角いフレームの中で、三人はそれぞれに満足げな表情をたたえている。


鷹揚な人となりに病的なエゴを潜ませる父親。


鬱積した欲望を抱えたまま満たされない日々を送る母親。


二人の血を引く無垢な娘は、この先際限なく世界に穢され、ヒトに穢されていくのだろう。


この家族が破滅していく様を見届けたいと彼は思った。


それは衝動とも言える本能的な欲求で、彼の中に初めて生じた飢えであり、渇きでもあった。


彼は自分を強く駆り立てるものに生まれて初めて遭遇し、不思議な充足感を覚えた。


そしてこの時、いつか彼自身が否定した誰かの言葉が頭をよぎった。


――自分がこの世に存在している理由を見出せ。


彼はシャッターを切り、そして予感した。


あるいはこの衝動的な何かが、自分がこの世に存在する理由になり得るのかもしれない。





(了)
< 66 / 66 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

ハツコイ☆血肉色

総文字数/19,021

ホラー・オカルト33ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
欲しいと願う“モノ”は、指をくわえて見ているだけじゃ手に入らない―― ユリカには過去があり、円城寺には秘密があった。 合コンを抜け出した二人は、円城寺の所有する別荘へと場所をうつす。 それぞれの思惑が交錯するなか、親密なひと時は刻々とその様相を変えていき、やがて狂気に彩られた不可避の惨劇が幕をあける。 ※ろくでもないお話です。
窓越しのエマ

総文字数/15,663

その他31ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「エマは世界で一番大切な人だよ」と僕は言った。 それなのに、 「あなたは世界で二番目に大切な人よ」とエマが言った。 僕はエマを殺してやりたくなった。
この動画を見ないで下さい

総文字数/16,195

その他42ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
[件名:この動画を見ないで下さい] 一通の怪しげなメールがすべての始まりだった。 僕、恋人のみちる、そして比留川という男。 時空を超えて絡み合う運命の螺旋。 終着点にあるものは何か。 ※一部残酷な描写を含みます。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop