最後の夏-ここに君がいたこと-
何も言わないで陸は下を向いていた。


ひとりにしてあげよう。


そう思い医務室から出ようと踵を返した、その時、陸が私の左手首を掴んだ。

柔らかくて、暖かい手……。


「インターハイ……連れていけなくて、ごめん」


陸の手が震えている。


「何……言って……っ」


熱いものがこみ上げてきて、涙が溢れそうになる。



もう十分だよ……。十分過ぎる。



座っている陸を抱きしめた。

悠太が別れ際に私たちを抱きしめて、元気をくれたように、陸によくやったって言ってあげたかった。

陸の髪が頬に当たる。


「頑張ったね、頑張ったよ、陸」


ここまで来れたのは、奇跡なんかじゃない。

一生懸命に練習を続けた、陸やみんなの努力があったからだよ。


「3年間、お疲れ様」


外から試合終了を告げるホイッスルが『ピー』と鳴った。

結果は1対2。

準決勝敗退。

青空のきれいな春、陸たち3年生は部活を引退した。




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