最後の夏-ここに君がいたこと-

ふたりきり

陸が話す県大会の話を聞くと悠太は寂しそうに「そっか」とだけ呟いた。


「悠太がいてくれたら、全国に行けてたかもなぁ」


陸が悔しそうに空を見上げた。

何も言わず悠太は困ったように笑う。


「そろそろ戻ろうか」


話し込んで裏山から町に戻ってくると、住宅街の電気はほとんど消えていた。

歩道に並んだ街灯だけが、この小さな町を薄暗く照らしていた。

陸の吹く名前も知らない曲の口笛が、この静かな夜にとても合っている。

3人の間を流れる優しい時間が、とても心地良い。

一昨年までは、3人でいることは当り前だったから、一緒にいる時間を“大切だ”なんて思ったことは、あまりなかった。

でも、今はこの時間がすごく大切だって分かる。

時間がゆっくり流れたらいい。

そうしたら、悠太ともっと長く居られるから。


「相変わらず寝るのが早ぇな。この町の住人は」


呆れた様に陸が言ったけれど、いつもなら陸だってもう寝ている時間だ。

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