私に恋を教えてくれてありがとう【下】

11、滓

それは嵐の去った翌日の事。


鏡に映る自分はいつもより膨張して見える。


五畳半の華子のお城は個性的で

畳を敷き詰めていて


二階にあるのはこの部屋だけ

何をしてもたいがい聞こえないし

分からない。


それを昨夜

思う存分利用したのだった。



鏡の中にいるいつもの彼女は不在。


華子はべったりと畳に座りこみ


その子の涙を拭った……


それを誰かの手と重ね合わせ


何度も拭った。




「……大丈夫。


 ……大丈夫だから……」



携帯にはこれでもかという位“M”という着信

そして公衆電話からもかけられていて

履歴がその二つに絞られていた。


メールは三人から入っていた。






牧田



滝瀬


そして白石祐樹……。



携帯を開き祐樹のメールを

滑らかに指でなぞる華子の心は

今何を欲しているのか明確。




「……祐樹……」





両手で握りしめたそれを頬に当て

かすれる声で囁いた。





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