私に恋を教えてくれてありがとう【下】
でもその影は黒くなく灰色。


「ちょ!!


 なにすんですか!!」



まん丸な目を縦長に開き

牧田の強引な腕力に抗いながら吠えた。



「!!!!

  あなたねえ!!」



「…!!!!!」



急に牧田の束縛が解け華子はきょどついてしまった。




「……わぁ……」



牧田は運転席に行儀よく身をおさめ
両頬に手を当てていた。




「????」




どうしたというのだろうか。

沈黙を敗れた事の方が今は嬉しい!と思いながら思案顔をして牧田を見た。



「……わぁって……


 何ですか」


華子は不機嫌を装いながら口を尖らせた。



「……先生?」




「…………っ」


暑いのか、牧田ははたはたと手で顔を仰ぎながら華子を横目でちらりと見たのち

弱った声を上げた。




「……あぁっ!!


   だめです!!」




「!?」



華子は思わずびくつき

激しい瞬きを3度した。




彼はどうしたのであろう全く見当がつかない。



「……先生??

 どうしたのって言ってるんです」


華子の声はやっと本来のリズムを取り戻し
いつも通りの曇りない音になり

空威張りがなくなったか
ドアに身を張り付けていたのを忘れ

もはや牧田寄りに掛けていた。





牧田は目袋をよりいっそ下げ
大きな溜息を肺の奥深くから一気に吐き出し言った。



「だって、あなた……


 “あなた”って」





華子は思いっきり眉間に皺をよせた。




「あなたあなたってなんです?」




牧田はもう一度大きな溜息をついた。









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