足跡たどって
「聖さん、帰ってきたの?」
「そうよ。今日、アメリカから帰国したらしいわ。昼間、お店の方に顔を出してくれたのよ。元気そうだったわよ。」
お母さんは、嬉しそうに言った。
初恋の人が、町に帰ってきてくれて、素直に喜んでいるみたい。
お母さんは、やっぱり優しい人だ。
私は、ちっとも嬉しくない。
一平ちゃんのお父さんに腹を立てているのだと思う。
淋しがり屋な一平ちゃんを一人ぼっちにした聖さんが、許せない。
「一平ちゃんは、聖さんに会いたくないと思う。」
お母さんは、困ったような顔つきで私を見た。
「そんなこと言わないの。人様のお家の事情に口を出すのは、失礼よ。」
私は、お母さんの言葉に返事をせず、キッチンを出て、自分の部屋に向かった。
雨戸を開けると、広い庭が見える。
私の家の庭ではない。
日吉家の庭だ。
日吉家は、私の家の裏にある大きな洋風のお屋敷である。
お屋敷の二階の一番左の部屋に見える部屋が、一平ちゃんの部屋だ。
電気がついていない。