優しい雨
3月も中旬だというのに、今日はひどく寒い。

ヒールを履いた足元を雨が濡らして、弱いけれども冷たい風が私から体温を奪っていく。

私は足から上ってくる冷えに凍えながら、駅から続く陸橋を下った。



私の名前『ありさ』。

母がイギリスの童話『不思議の国のアリス』が大好きで、長女の私が生まれた時、本当は『ありす』という名前を付けたかったそうだ。

しかしその童話以外には聞くことのないその名前に、祖父母や父が大反対したので、一文字代えて『ありさ』という名前にしたらしい。

もし私が『ありさ』ではなく、『ありす』と言う名前だったら、どこにでもいる平凡な少女の運命は、何か少し変わっていただろうか?

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