白い鼓動灰色の微熱
中から、大音響と、彩人の艶やかな声が襲い掛かってきた。
 
ステージの上で、彩人は体をくの字に曲げ、体中から声を絞り出すようにして、歌っている。

こちらの意識を絡めとり、その世界に強引にいざなうようなヴォーカル。
 
この瞬間に、そばに綺麗な手の持ち主がいたら、アイスピックをその細い首筋に突き立てたいほど、彩世の気分は高まった。
 
凶器になるような、鋭利なものを持ってなくて良かった。

気持ちが高ぶるのに任せるわけにはいかなかった。
 
と、

誰かの手が彩世の手に触れた。
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