リアル
坂部は憔悴した表情を浮かべて田中に語り掛ける。
「じゃが……」
 田中は、坂部の心情を察すると同時に、掛ける言葉が見付からずに沈黙する。坂部の背後ではカタカタと窓ガラスが寒波で微かに揺れ動く。田中に取っては、本懐を遂げる事の出来る千載一遇のチャンスであり、坂部からすれば一世一代の決断に成る。互いの思惑が交錯する中、二人は卓袱台を挟み、同時に「あの……」と声を上げて再度押し黙る。死と云う最後を求める者と幇助する者。進むべきベクトルは同じではあるが、待ち構えている結末は似て非なる物である。坂部は、自分の申し出により困惑している田中に如何対応して良いか分からず、湯飲みを手に持ちゴクリと茶を飲み下し、再度意を決した様に話し出す。
「……色々と田中さんのお話を聞かせて頂いて、僕自身本当に考えました。仮に、僕の両親や恋人が同じ状態に成ったとしたら如何するだろうかって……」
 坂部の頭の中を膨大な言葉が駆け巡り、思いを纏めるのに苦労し乍らも、ゆっくりと話し出す。
「確かに、価値観やその人との親密度によって差異はあると思いますけど、大切な人であればある程に、辛い物だと云う事は分かります」
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