本当に愛おしい君の唇
「令香の長男をいずれは養子に入れ、立派な跡継ぎとして育て上げる」と。


 およそ同族経営などが流行らない新しい時代に、あえて自分に血が近い人間を社の責任者としておけば、何かと都合がいい。


 実権はいったんこちらが握り、養子で入る令香の息子――金兼原忠志(ただし)というのだが――に徹底して教え込んで、いずれは継がせれば済む話なのだから……。


 遠い先のことまで考えるのが、賢い経営者なのである。


 数年先、下手すると数十年先まで見据えて。
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