本当に愛おしい君の唇
「ええ。お金がないし」


 これが一OLの現実なのである。


 生活資金は確かに稼いでいたのだが、自分が使う金に関してはかなり節約しているようだ。


 使うことがあったとしても派手にはしない。


 直美は二人子供がいて、長女はすでに就学していたし、長男ももうすぐ学校に行くのだから、ある程度手が離れてしまっている。


 治登は彼女に家庭があるのに、その家庭を壊してしまっていることに対し、罪深さも感じていた。


 だが、直美は治登のことが好きらしいし、治登も彼女を愛している。


 それはウソ偽りのない事実だった。


 俺たちは分かり合えている――、そう思いながら……。


 治登は有希との結婚生活に関して、全く満たされていないと感じていた。


 彼女には若い彼氏がいるのである。

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