愚者
―何故なの?
 葵は混乱する。何もした覚えがないのに、何故か自分がイジメの対象に成っている。しかし、騒ぎ立てる程に現状が酷く成る可能性も高く、何よりも母に心配を掛ける事に成る。それだけは何とか防ぎたい。葵は血が滲む手をハンカチで包み込み、指先の痛みと心の痛みの両方から来る辛さに耐える。自分が我慢をすれば云いだけの事だと何度も云い聞かせる。
 周りの生徒の誰かが意図的に仕掛けたのは間違い無い。心の中に鬱々とした気持が音叉の様に広がる。葵は机に教科書を準備して悲しみを堪えていると、教室のドアが開き担任が入って来た。
「起立」
 学級委員である男子生徒が元気に声を上げると、生徒達は一斉に立ち上がり儀式の様な動きで挨拶をして着席する。日常が動き出した。葵は出来得る限り教室に溶け込む様に努力し様としていると、担任が葵の名前を呼び教壇の前に歩かされる。担任の口臭から若干アルコールの臭いがする。葵が恐怖で立ち竦んでいると、担任が葵に蔑む視線を向けて来る。
「あ、あの……」
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